今まではチャンスボールが来たら強打してたけど、
強打せずに、
相手のバックにアプローチショットを打って、
ネットに出るように指示したんだ。」
「で、そのあとは?」
「ない。」
「えっ!何も指示してないの?」
「ネットに出てからのポジショニングや、
ボレーやスマッシュの技術や戦術や戦略って、
いっぱいあるんだけど、
時間がないからそこまでしか指示できなかった。」
「まあね。」
「それに、時間があったとしてもだよ、
そんなにいっぺんに教えても、
全然消化できなくて中途半端になっちゃうしね。」
「そうね。」
「戦術というのは、
1つずつ頭でしっかり理解して、
その上で戦術練習を繰り返すことで、
1つずつ身につけていくべきなんだよ。」
「ふ〜ん。」
「で、ちゃんとアプローチショットが打てるように、
戦術練習を15分間繰り返しやったんだけど、
アキラとしては、もうそれでいっぱい・いっぱい。
だから、ネットに出たあとは、野となれ山となれ、って感じかな。」
「表現が古っ!・・・。
じゃあ、ネットに出てからはおまかせ?」
「ボレーするなり、スマッシュするなり、あとは、
アキラにおまかせなんだけど、
これが意外に球が返ってこないんだ。
アプローチショットを打って前に出るだけで、
相手は無理にパスしようとしたりして、
勝手にミスする。
で、返ってきても、
ただボレーするだけで、なんとなく決まっちゃったりしてね。」
「そんなものなの?ネットプレーって?」
「もちろん、一方的にアキラがポイントを取っていたわけじゃないよ。
ボレーをミスしたりもするし、
バーンと抜かれたりもする。
でも、ネットに出続けると、
それだけでゲームを取れたりするというのが事実。」
「そんなものなんだ。」
「そう。
ネットに出るだけで相手にプレッシャーをかけることができる。
アキラは、ボレーやスマッシュで、
ビシバシエースをとるなんてできないけど、
とりあえずネットに出て、
壁のようにただボレーで相手コートにボールを返すだけなのに、
結果的にたくさんポイントを取って勝つことができた。」
「うん。」
「こんなただネットに出るだけの戦術でも、
シングルスの勝敗を左右する立派な戦術にもなりえるということなんだ。」
「なるほどね。
アキラが、いつもよりは、
ヘタに見えたり、カッコ悪かったような気がしたのは、
サーブがファーストからスピードが遅かったり、
フォアの強打が無かったからだったのね。」
「そう。
ビシバシ強打してカッコよさそうにプレーするより、
とにかく勝つこと。
勝つのが一番カッコいいんだよ。
勝てばヒーロー、スーパースター!」
「そうよね。
それは今回よくわかった。
それから、アキラは試合中ブツブツ言ってたけど、
あれは何を喋ってたの?」
ずっと黙って聞いていただけのアキラが、
ユミに話しかけられてやっと口を開いた。
「あれはね、・・・」
(つづく)
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