自分にとっても有効な戦術なんだってことね。」
「その通り。それから、・・・」
「ご注文はお決まりですか?」
話に割って入ったのはウェイトレスだった。
話に夢中になっていて注文するのを忘れていたのだ。
3人ともあわててメニューを手に取って、
苦笑いを浮かべながらそれぞれ注文した。
ボクは水をひと飲みした。
「え〜っと。どこまで話したっけ。」
ユミが答える。
「『普通1番だろ』戦術が、
相手に対してだけ有効な戦術ではなく、
自分にとっても有効な戦術なんだってところまで。」
「あ〜そうそう。
え〜っと、それから、アキラには、
ゲームの最初のポイントだけでなく、
プレッシャーのかかったポイントでも、
必ずファーストサービスでセカンドサーブを打つように指示したんだ。
アキラはプレッシャーがかかると、たいていはダブルからね。
ダブって相手にただでポイントをあげるのと、
ヒョロヒョロサーブでもファーストから入るのでは、
天と地の差があるんだよ。」
「まあね。そういわれてみると確かにね。」
「現にアキラは今回1度もダブらなかった。
それに、この戦術は、
ファーストサービスでセカンドサーブを打っちゃうから、
チェンジアップにもなる。」
「チェンジアップって何?」
「チェンジアップというのは、野球の投球法の1つなんだけど、
球速や球質に変化をつけて、
打者のタイミングをはずす投げ方なんだ。
特に、速い球のあとに、
同じ投球フォームで投げるゆるい球のことを言うんだ。
またの名を、チェンジオブペース。」
「へ〜そんなことするんだ、野球のピッチャーって。」
「そう。それから、野球のピッチャーがよく、
簡単に2ストライクとったあと、
次の球をわざと外してボールにすることがあるんだ。
2球外して2ストライク2ボールにしたり。」
「ふ〜ん。何で?」
「2球続けてストライクだと、
バッターの目がストライクボールに慣れてしまっているんだ。
だから3球目に同じようにストライクを投げてしまうと、
打たれてしまう確率が高くなるからなんだと思う。」
「なるほど。3球続けてストライクじゃ単調だもんね。
でも、3球目が球種が違えば単調じゃないんじゃない。
例えば、ストレート、ストレートときて、カーブってのはどう?」
「確かにその場合単調ではなくなるけど、
それには別の問題点があるんだ。
それはね、
3球続けてストライクを投げて3振をとるということは、
かなりの集中力が必要で、しかも、
人間ってのは普通はそんなに集中力は続かないということなんだ。
だから、ボール球を2球続けたりして、
一旦気持ちを弛緩させておいてから、
改めて気持ちを緊張させて集中させる。
つまり、落ちかけた集中力を、
逆にわざと一旦底まで無理矢理落としておいて、
改めて一気にてっぺんまで上げれば、
しっかり集中できるということなんだ。」
「なるほどね。
でも、それとテニスのサーブとどう関係あるの?」
「それはね、テニスでいえば、まず、
強いファーストサーブを常に入れ続ける集中力っていうのは、
人間は普通はそんなに続かないということなんだ。
だから、時々、入れるだけのセカンドサーブを1球目から打つことで、
落ちかけた集中力をわざと落としておいて、
次に強いファーストサーブを打つ時に、
一気に集中力を高めることもできるということなんだ。」
「野球のピッチャーとテニスのサーバーって、似た所があるのね。」
「そう、そして、ボクがアキラに授けた2番目の戦術、
『バックオーライ』戦術なんだけど、これもサーブの戦術なんだ。」
「そうなんだ。それってどんな戦術?」
「それはね、・・・」
(つづく)
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