1セットマッチだ。
アキラのサーブから始まったゲームは、
あっさりアキラがとった。
タクヤはいつもと違う雰囲気を感じ取ってはいた。
しかし、それは気のせいだとばかりに、
自分のプレーに集中しようとしていた。
接戦になった。
しかし、タクヤはまだ落ち着いていた。
格下とやっても接戦になることは珍しいことではない。
どちらにしろ勝つのはオレだ。
タクヤはそう思っていた。
アキラは集中していた。
ポイントをとられても、
下を向いたままブツブツ言いながら歩いて、
次のポイントに集中していた。
自分のやるべきことを自分に言い聞かせているようだった。
アキラがゲームをとってリードするたびに、タクヤに焦りが出てきた。
焦りがミスを呼び、ミスがさらに焦りを呼ぶ。
タクヤが悪循環に陥ってしまうと、アキラの戦術の有効性は増す。
大きくリードしたアキラだが、
終盤に自滅して逆転される危険性がないとは言えない。
いわゆる勝ちビビリというヤツだ。
しかし、それはいらぬ心配だったようだ。
もう、タクヤには余力が残っていなかったのだ。
自滅したのはタクヤの方だった。
あっさりと試合は終わった。
アキラの完勝だった。
アキラは興奮していた。
あふれる喜びを必死で抑えようとしていたが、
どうしてもこぼれてしまっていた。
この結果に一番驚いたのは、
タクヤでもなくリョウでもなくユミでもなかった。
もちろんボクでもない。
勝った本人であるアキラが一番驚いていた。
「おいおい、ほんとに勝っちゃったよ。」
という感じの顔だ。
そりゃそうだ。
勝とう勝とうとしたのではなく、
戦術に集中して戦術をこなしただけだ。
その結果勝てたということだからだ。
一方、タクヤの狼狽は普通ではなかった。
顔が不自然にこわばり、
目を伏せたまま視線を上げることが出来ない。
頭からタオルをかぶってベンチに座り込んで、
がっくりと肩を落としている。
そりゃそうだ。
負けるはずのない相手に負けてしまったのだから。
誰も話しかけられない状態だ。
しかし、カレに慰めの言葉などいらない。
この屈辱を骨の髄まで味わうのだ。
それが、これからのエネルギーになる。
これから強くなるためのパワーになる。
負けて初めて、
バカにされて初めて、
見下されて初めて、
軽く扱われて初めて、
人は自分の誇りを奪われたことに気づく。
プライドを失ったことに気づく。
強くなければ自分の誇りは守れないのだ。
(つづく)
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